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特集 2015年08月号(Vol.455)

欧州での海底ケーブルプロジェクト

今回は、海底送電線の最大市場と言われている欧州で当社グループの(株)ジェイ・パワーシステムズ(以下、JPS)が携わっている海底ケーブルプロジェクトや採用されたケーブルの概要をご紹介します。

JPSの直流XLPEケーブル

近年、長距離・大容量送電に有利な直流送電線路が欧州などで活発に建設されています。これらの線路には、絶縁油を用いたOFケーブル(※1)が主に用いられてきましたが、保守管理、経済性や環境面から、固体絶縁であるXLPEケーブルの適用が望まれるようになりました。XLPE(Cross Linked Polyethylene)とは、ポリエチレンを架橋し分子構造を網目構造とすることで高温での軟化を大幅に改善したものです。XLPEケーブルはこれを絶縁体に使用したものであり、他の絶縁材料より高温で使用できることから導体サイズが低減可能になります。

XLPEケーブルは、交流送電用としては広く普及していますが、直流電圧下では絶縁体中に空間電荷(※2)が蓄積するなどの理由で十分な絶縁性能を発揮できませんでした。この問題に対しJPSは、XLPE絶縁体中に特殊な配合剤を均一に分散させることで、材料の体積抵抗率を飛躍的に向上させ、また、絶縁体中に蓄積する空間電荷を劇的に減少させた、これまでにない高性能な「超高圧直流XLPEケーブル」の開発に成功しました。非常に優れた直流絶縁性能によって、従来の直流XLPEと比較して、約20℃高い温度(90℃)での連続運転と、送電電圧の極性反転(※3)運転とを世界で初めて可能にしました。

※1
OFケーブル:油浸絶縁紙を絶縁体としたケーブル。
※2
空間電荷:絶縁体中に蓄積する電荷のこと。大量に蓄積すると絶縁体に加わる電界を大きく変歪させ、ケーブルの絶縁性能に影響を及ぼす。
※3
極性反転:直流連系線の運用状況に応じて、ケーブルに印加される電圧のプラスとマイナス(極性)を入れ替える操作。

【PROJECT】イギリス南東部のケント州とベルギーのゼーブルージュ間海底ケーブル

本プロジェクトは、イギリス南東部のケント州と、ベルギーのゼーブルージュで建設が予定されている交流直流変換所を結ぶ連系送電線の建設プロジェクトで、全長は141.5km(海底区間130km、陸上区間11.5km)となります。設計、調達、建設を含むEPC契約(※4)となり、プロジェクト総額は約700億円です。

JPSでは世界トップの性能と汎用性を持つXLPE絶縁材料の開発に成功、北海道と本州を結ぶ既設の連系送電線に追加布設され、2012年から直流250kV/300MWの送電を開始しています。既に500kVまでの高電圧化開発も完了していることが高く評価され、本プロジェクトへの採用に至りました。また、JPSは今回紹介したプロジェクト以外にも、イギリスで2件の海底ケーブルの受注実績があります。

※4
EPC契約:設計(engineering)、調達(procurement)、建設(construction)を含む、建設プロジェクトの建設工事請負契約。

JPSは、直流XLPE絶縁ケーブルでは世界最高電圧となる±400kVクラスのケーブルの設計・製造工事・竣工試験・試運転を請け負い、2019年に引き渡す予定です。

【PROJECT】ドイツの洋上風力向け海底ケーブル

本プロジェクトは、ドイツSiem Offshore Contractors社(SOC)と共同で、ドイツ送電業者であるTenneT社より洋上風力発電所の洋上変電所と洋上交流/直流変換所を結ぶ交流155kV 3芯CV海底ケーブル(計15km、ルート長約6.5km)の資材供給および工事を2012年に受注したものです。(送電容量332MW/2回線)。福島第一原発の事故を受けドイツ政府が原発廃止を決定、同国における再生可能エネルギーへの期待が急速に高まる中、水深が浅く安定的な風量を確保できる北海の洋上風力発電の開発は喫緊の課題となっています。当社の実績と信頼性に加え、パートナーであるSOC社の布設技術がお客さまの高い評価を得てこのような重要線路の受注に結びつけることができました。

今回ご紹介したXLPEケーブルのみならず、MI海底ケーブルも欧州で活躍しています

当社は、2014年1月にモンテネグロとイタリアを結ぶ海底電力ケーブルプロジェクトにおいて、イタリア電線メーカーのプリズミアン社より、MI海底ケーブル※の製造を受注しました。本プロジェクトは、イタリアのテルナ社の子会社であるテルナ・レテ・イタリア社が計画中のもので、モンテネグロとイタリアの間に、送電容量500MWの直流500kV電力ケーブルを2条(双極運転で1,000MW送電が可能)、最大深度1,200m、亘長約415kmにわたって布設するものです。

本プロジェクトは、ヨーロッパ全土を結び、再生可能エネルギーの大規模導入、電力需給の均衡、効率的な送電を行い、ヨーロッパにおける電力市場を活性化させる次世代送電網(スーパーグリッド)の構築をより促進します。

本プロジェクトを計画通りに完工させるために必要となる直流500kVMI海底ケーブル115kmの製造を担っており、2014年に当社・大阪製作所で製造を開始し2016年に納入予定です。本プロジェクト受注により当社は、500kV長距離大容量の国際連系線市場に参入を果たしました。

MI海底ケーブル:MIはMass Impregnatedの略であり、絶縁紙に高粘度の絶縁油をマス含浸することを意味します。MI海底ケーブルは、これを絶縁体に使用したものであり直流特性に優れるとともに、OF(Oil Filled)ケーブルに対し給油設備が不要となり、長距離送電が可能になります。

担当者に聞いてみました!

Q 海底ケーブルはどのように布設するのですか?

海底ケーブルは、工場に横付けした布設専用船や貨物船に直接積込み、工事現場まで輸送します。工事現場では、布設専用船から、慎重にケーブルを海底に繰り出しながら、船の位置を正確に制御し、海底に布設していきます。また、重要な海底ケーブルは、高圧水流や、鋤、チェーンカッターなどの水中機械を用いて、錨や漁具に引っ掛けられることがないよう、海底に埋設しています。

Q イギリス南東部のケント州とベルギーを結ぶ海底ケーブルの重さや太さはどれくらいですか?

重さは約45kg/m 外径は約14cmです。

Q 海底ケーブルを1度ひいたらどれくらい持つのですか?

設計寿命は40年です。

Q お客さまからJPSのXLPEケーブルについてどのような反応をいただいていますか?

国際連系線や洋上風力発電市場の世界的な活発化を受け、長距離送電に適したDC-XLPEケーブルのニーズは今後ますます増えていくことが確実です。お客さまにとっては最重要線路向けのケーブルということもあり、当社の実績と品質への徹底したこだわり、環境への優しさに加え、当社製品特有のメリットとして高い運転温度によりケーブルをコンパクトにできる点や、極性反転に対応した双方向のシステムの運転が可能である点が高く評価されています。


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